伊藤浩介氏の「脳と音楽」を読了したのでレビューです。
書籍情報
| タイトル | 脳と音楽 |
| 著者 | 伊藤 浩介 |
| 出版 | 世界文化社 |
| 発売日 | 2024年10月8日(初版) |
| 価格 | 1,800円+税 |
| ISBN | 978-4-418-23216-1 |
はじめに
本書は一般的な音楽理論の本ではありません。
マイナーコードや減五度はなぜ不協和的に感じるのでしょうか?
多くの理論書では周波数比を持ち出して、周波数の比がきれいな整数比ではないからだと書いてあります。
では周波数の比がきれいな整数比でないと暗さや不安を感じるのはどうしてでしょうか?
10,000:10,001のようなほぼ同じだが微妙に誤差がある周波数比は不協和となるのでしょうか?
本書はこのような疑問に対し、体のしくみ(耳の構造)や脳科学、心理学的な観点から説明を試みる本です。
私自身長らく趣味で音楽を嗜んでおり、一般的な音楽理論については少し勉強をしたことはありましたが、このようなアプローチの本を読むのは初めてでした。
自身のアプリ開発でも音楽や音声を扱いたいと考えており「音」を効果的に聴かせるにはどうすれば良いか、そもそも「音」とは何か、「音楽」とはどう違うのか、そして純粋な知的好奇心から本書を手に取ることを決めました。
「楽器演奏がうまくなる」類の本ではないと(私は)思いますが、大変興味深い内容でした。
感想
本書の構成はまず
- 音とは何か
- 音波とはどう違うのか
- 人の耳は音波をどうやって捉えるのか
という物理学、解剖学、生理学的な視点から人が音を感じる低レイヤー部分の解説から始まります。
導入の部分を少しだけ引用します。
ひとことで言えば、音と音波は全くの別ものだということです。
(中略)
音は、聞こえの感覚です。物理現象としての音波が動物によって感知されたときに脳で生じる感覚が、音です。
第一章「音波と音」より
まずは物理現象と感覚が違うこと、そこから本書は始まります。
この部分は私にとって特に面白く、よく言われる「周波数比がきれいな整数比だと協和的に感じる理由」が耳の仕組みに大きく関わっていることが解説されています。
そして徐々に音階、和音、曲の構成など高次的な内容に進み、最終章では「音楽とは何か?」というある意味究極の問いに進んでいきます。
音楽理論を学べば必ず出てくる音階についても「なぜドレミファソラシ」の7音なのか。民族音楽等でよく使われるペンタトニックとはどう関係しているのか、というようなことを科学の視点から深掘りしています。
高次的な内容についても発見が多く、特に音楽における驚きや感動はどう作られるか、という話におけるミスマッチ陰性電位(第八章「音楽と脳」)の解説では「寝ていると思ってTVを消したら起きたお父さん」という例で「音がないこと」でも驚きを与えられるとあります。演奏におけるブレイクやラストのサビ前のCメロや大サビと呼ばれるような部分をあえて静かにするなど、実際の楽曲でも使われているテクニックが脳科学的にも効果的であるということが示されています。
最終九章「音楽とは何か」では現代音楽などに触れつつ「雨の音は音楽か」といったある種哲学的とも言える問いに、著者なりの解を与えることを試みます。序盤の物理、生理学的な話とは全く違った展開となっていきますが、終盤も興味深い内容でした。
約350ページにのぼるボリュームですので、本記事ではほんの一部に触れるに留まりますが、音楽とは何か?をもっと深く知りたい方にとって、本書は良い知見を与えてくれると思います。
物理学、解剖学、脳科学、心理学、最終的には哲学や言語学まで、音楽という共通の軸を通して幅広い知的好奇心の旅に出ることができ、近年読んだ中でも特に良いと感じた一冊になりました。

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