書籍レビュー「すぐやる脳」

ビジネス
タイトルすぐやる脳
著者菅原 道仁
出版サンマーク出版
ISBN978-4-7631-4167-5
価格1,400円+税

本書は「物事を先延ばしにしてしまう」「続けられない」「決められない」といった人の行動を脳科学、心理学的にアプローチ、解説しています。

これらを課題だと感じている人は多いのではないでしょうか。私自身「すぐやる脳」というタイトルの本を手に取ったぐらいなので「行動が遅い」「優柔不断」ということをずっと課題だと感じていました。

一方で、ビジネス・自己啓発の類の書籍には懐疑的な気持ちも持っており、ほとんど読んだことはありませんでした。こういった問題は自分に備わった性質であり、書籍を読んだ程度で変えることは難しいのではないかと考えていたからです。

ですが、課題は取り組まなければ解決することはありません。いつかトレーニングや心理学的な勉強をしてみたいとは考えており、そんな時たまたま本書がビジネス関連のニュースサイトで取り上げられていたのをきっかけに読んでみることにしました。

本書の要点の1つは「先延ばしにしてしまう」ことを始めとした諸問題は脳の仕組み上仕方なく、人間の本能と呼べる性質であり、古今東西多くの人が共通して感じている課題であるということです。

脳とは「怠惰で、流されやすく、誘惑に弱い」。実は、こんなネガティブな表現がぴったりなのです。(中略)それは、どんなに「優秀」とされる人の脳でも、どんなに「勤勉」と称される人の脳であっても、本質的なところでは同じです。

序章「脳がそれを拒否する理由」より

脳が本質的にそういう仕組みである以上、それを解決するための方法もまた、脳の仕組みを利用することになります。

本書では「ドーパミン・コントロール」という脳内の報酬系と呼ばれる仕組みを利用する方法を紹介しています。簡単に言えば「うまくいって気持ちがいい」という脳の状況を積極的に作り出そう、ということです。

誰もが怠け者の脳を持っているはずなのに、世の中には素晴らしい結果を出している人が多く居ます。そのような人たちが(場合によっては無自覚に)行っている「ドーパミン・コントロール」の手法を用いて「先延ばし」してしまう問題や、終盤では「決断」「怒り」などの問題に応用していくというのが本書の構成です。

本書を読んでいて大変納得できた点が、脳神経外科医である著者が科学的事実に基づいた説明や、数々の研究・実験例を交えて説明を行っていることです。

例えば第4章「慣れる」では物事が長続きしないこと、すぐに飽きてしまうことを心理学的な用語である「馴化」という言葉で説明しており、それにまつわる研究についても紹介されています。

「長続きしない」というような多くの人が感じているだろう問題に対し、心理学的な用語がついていることをまずは知り「脳ではこういうことが起きていたのか」と客観的に捉えることが、問題解決の第一歩であるように感じます。

私は心理的な問題に対して、いわゆる「精神論」で対応することに以前から疑問を感じることがありました。素人の考えではありますが、精神というシステムを精神自体でコントロールすることは難しいのではないかと考えていたからです。数学の話ですが、システムはシステム自身の無矛盾を証明できない(ゲーデルの不完全性定理)のようなことをぼんやりと思っていました。

心という捉えにくい対象こそ、科学的、客観的なアプローチが必要だと感じます。

「明日からがんばろう」というある種のジョークのようになってしまっている言葉を自分の中で反復しても意味はなく、過去のがんばれなかった自分と決別し、実際にがんばるためにはどのような方法が必要かということを考えるべきだと思います。

そういう意味で本書のように心理学、脳科学的にアプローチするというのは納得感を持って実践に移せると感じました。

実はこの記事自体も、本書の方法論を少し取り入れて書き始めています。

  • とにかくすぐに書き始め(読了したのがつい数時間前です)「作業興奮」を引き出すこと
  • 過度な完成度を求めず、適度な推敲で投稿しようと考えていること(これを宣言してしまうのはどうかと思いますが)

作業を始めるまでは時間がかかってもしまっても、始めれば乗り気になりサクサク進むというのは誰しも一度は感じたことがあると思いますが、本書ではそれが脳科学的に正しいということが書かれています。私が今書いている記事にしろ、副業で行っているアプリ開発にしろ、とにかくアウトプットを早く出すというのはビジネスにおいて重要であることは言うまでもありません。

本書だけの話ではありませんが、何か1冊本を読んだからといってあらゆることがうまくいくようになるとは限らないでしょう。ただ、本を読むということは先人や専門家の知恵を体系的に得るための優れた方法だと思います。

エンジニアである私が何か新しい技術領域に挑戦する時に技術書を読むように、ビジネスの方法論や心理的な課題に対しても様々なことを勉強していくことで少しずつ前に進んでいけると思いました。

本書ではその「前に進んでいる」という感覚を大事にし、喜びを味わうことが重要だと書かれています。1冊の本を読了したことも1つの成功体験であり、それを味わうことが「ドーパミン・コントロール」であるということです。

このような方法論を取り入れつつ、自分の仕事やビジネスをより楽しいものにしていければいいなと思う次第です。

私たちには、自分が思っている以上に大きなことを成し遂げる力があります。脳は、潜在的な力をまだまだ秘めているからです。

第6章「挑戦する」より

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